アクターズスタジオと褐色のモデル

下の前歯がガタガタする。気になって鏡を覗くと今にも抜けそうな状態である。急に怖くなって他の歯を確認する。他のはもう同様か、それ以上に不安定な状態である。どうしよう、歯が全部抜けてしまう。悩みながら鏡に向かい続けて、ふと目が覚めた。嫌な夢だ。すぐに夢診断で検索をかけると、極度のプレッシャー、環境の変化に対応できていない、自分を大きく見せようとしている、などの答えが出てくる。嫌だな～、こういうのは当たってるのか当たってないのかよくわからないくらいの加減で頼むよ～（笑）

正直こちらに来てかうまく眠れていない。ベッドの上にある四つの枕を試しては投げ捨て、最終的にバスタオルを丸めて目を瞑る。目が覚めても太陽が全然追い付いてくれない。口の中にヘルペスが出来てしまった。完全にプレッシャーに負けているのである（恥ずかしい）。アメリカの薬局で真っ赤な頭痛薬を買った。常に体がだるくて、センシティブな自分自身が可愛く思える。

何も、アメリカでの奮闘記に苦さを添えたいわけではない。楽しいことだって山ほどある。アクティングスクールのアーロン（76歳とか？）さんに毎日演技の授業をしてもらっている。ジェニファーロペスとのあの仕事が～とか、ウィルスミスとはもうずっと仕事をしてる～とか、ほかにもレジェンド俳優たちの名前がバンバンに出てくる。スタジオの壁には彼らとのツーショット写真が何枚も飾られている。アーロンはゴシップと若い女性が大好きな人だ。奥さんは30代の金髪美女で、紹介された時はこいつの話は信用できないとすら思ってしまった（愛に年齢差は関係ない！）

芝居の話をしている。台本をどう読み取るかを考えている。アーロンは僕に芝居で教えられることはないと言う。彼の専門は台本をどう読み取るか、なのだとか。いろんなパターンを持って、監督に提案して、対応できるために深掘りする。その手伝いが彼のプロフェッショナルだと話す。（サラッと言うけど）数日前、新しい映画の話をもらった。主演ではないものの大きなプロジェクトのキーマンとなる役であり、その脚本をアーロンに見せて彼との「深掘り」を楽しんだ。まだその作品をやるかどうか（スケジュールや諸々あり）は置いといて、唸るようなアイディアや考え方が彼から知れて、ただの女好きではないんだな～と思った。

アーロンは僕を気に入ってくれて、食事に誘ってくれた。ウエストハリウッドにある有名なイタリアンで、僕にどんどん食べろと勧めてくれる。「パンのおかわりもある、オリーブオイルには塩と胡椒をかけるのか俺のスタイルだ、ワインを一口どうだ？肉も魚も食べるか？」と、僕を苦学生かなにかだと思っているのかも知れない。（ちなみに基本、先生が食事に誘ってご馳走してくれるなんてことは滅多に無いらしい）

「初心者、中級者に向けた30人ほどの演技クラスがあるから見学に来るといいよ」と誘ってくれた。四時間あるそのクラスに吐きそうになったが、ご飯を美味しい美味しいと食べる可愛い後輩を演じてしまった流れで、イエスというしか選択肢がなかった。クラスに参加して、日本から来たスペシャルな俳優だと紹介してくれた。数人がトウキョウバイス…と言ってくれて少し先輩風を深しそうになったが、ここは抑えて丁寧に礼をした。

隣に金髪に焼けた肌の女の子がいた。彼女はモデルらしく、今日が初めてのクラスだという。アーロンがなぜかその彼女だけ紹介してくれて、僕たちは握手をした。

クラスでは2人1組で、それぞれが事前に配られたシーンを披露する。それに対してアーロンが指摘して、参加者全員で、どう見えたのか、どうすれば良くなるか、を、ディスカッションしていく。悪く無い時間である。一人の一生懸命でやる気に満ち溢れすぎたオーバーな男の子がいて、僕は彼のことが好きになり、帰り際少し話して握手をした。彼は一年もクラスを受けていてとにかくリラックスしろと言われ続けているらしい。他の人が芝居したり、他の人へのアドバイスの時間もノートに書き込み、何かを吸収しようとする姿勢に胸を打たれるものがあった。トツキョウバイス…とすぐに気づきたのも彼であり、他の映画や俳優、監督たちの名前がバンバン出て来る。意外と勉強熱心な不器用なやつで、いつか一緒に芝居ができると確信している。

後日、またアーロンのクラス（今回はマンツーマン）に行く。全体の演技クラスの見学はどうだったかと聞かれ、「シャネルがお前のことを気になっていたようだぞ」と言われた。クラスにいたモデルちゃんである。「あいつはいいやつだけど、気をつけろよ～と伝えといた」とにやにやしていた。ジジイ、本当にそんなことしか考えていないんだな、まぁ、元気は何よりか。

そんな毎日を過ごしている。

https://youtu.be/xgMT-6O0U8c?si=vsxH9TJWxxbIjT9g