世界を見れば見るほど近くに目が行く

くだらないなって思ってたJ–POPの歌詞が染みるときは、少し自分の中のバランスが優しさに偏っている時だ。優しさで前に進むには馬力が足りないような気がしていたけど、今はどうだろうか？春なのに雪が降ったり、深夜にアイスクリームを食べたり、夢か現実か、判別するのが中々難しくて面白い。

名古屋に帰郷し、母方の祖父の妹、ねーねのお見舞いに行って来た。「あった時ビックリしないでね」と連絡を貰ってから、ずっとドキドキしていた。そういうのに向き合うのは、あまり得意ではない。施設の受付を済ませ、エレベーターで部屋へ向かう。向こうのほうにねーねの娘さんが立ってお辞儀をしてくれた。一番奥の部屋へ入る前に、ぐっと覚悟を決めた。扉を開けると、車椅子に座るねーねがが居た。「しょうくんがお見舞い来てくれたよ」と部屋に入る。こちらを向いて、何を話すわけでも無いので、「元気ですか」と猪木みたいな挨拶をした。敬語だったのかタメ語だったのか、前までどんな話をしていたのか思い出せなかった。

母と叔母さんが世間話を始めたので、何だか少し助かった気分になった。相当つまらない話で、再放送の科捜研の女の内藤剛志が若過ぎるとか、再放送の印税がすごいんじゃないか、とか。「ご飯は食べれるの？歩ける？俺ってわかる？なんて言っているかわかるかな？」と話すたび、頷いてくれたりした。耐えきれず、「お土産を持って来ました！！！」と僕。ニューバランスの一番良いやつは健康靴としても有名だと、NBの人から以前仕事の時に案内された。リハビリの時にでも履いてくださいと靴紐を緩めて、片方ずつはかした。しんどそうで迷惑だったかも知れない。「飾っててもかっこいいからね」と誤魔化した。

手が乾燥すると聞いていたのでハンドクリームも買ってきた。お店の人にアンチエイジングを勧められたのでそれにした。ブランドものはかっこいいけど、開けづらくて使いづらいかも知れない。現に、一人では蓋も開けられなかった。見てられなくて、蓋をとって、クリーム塗ってみる？というと頷いたのでそうした。ハンドクリームか良い香りがする。シャネルだ。シャネルが何なのか、僕にはよく分からない。仕事もしたこともないし、何が有名なブランドかも知らない。弟と前日、お見舞いのプレゼントを選んでいたら「女性にはシャネルでしょ」と生意気を言っていて、僕は何がいいか全く分からなかったので言われたとおりにした。すごい並んだし、「会員登録が必要です」と言われ、機嫌が悪くなりそうな僕の隣で、「ぼく、以前買い物した時に登録しました」と、スマートな笑顔を見せる弟の隣で、何だか恥ずかしくなった。

普通の香り違いが三種類、アンチエイジングが一種類、しかもアンチエイジングのやつはちょっと高い。ていうか、ハンドクリームにしては全てが高過ぎる。「絶対アンチエイジングの特別なやつのがいいよ」と弟が言うので渋々それにした。「紙袋はつけますか？」と言うので「商品だけでいいです」と僕。「絶対シャネルの紙袋いるって」と弟。そうなの？ゴミにならないか？「いやいや、これが嬉しいだって」

ハンドクリームを80を過ぎた女性の手に塗りながら、前日のことを思い出していた。顔を上げると、ねーねが泣いていた。何も言わず、ボロボロと泣いていた。弱い力で、手を握り返してくれている気がした。ご飯はもう食べないらしい。リハビリをするけど大変で、外に車椅子に乗せてもらって散歩に行くらしい。「ありがとうね」ってほとんど分からない位の声で言われた。ちょうど再放送の科捜研の女が終わるくらいに、僕は母と部屋を出た。

その後、祖母の病院に向かった。肩の骨を折ってしまい（それでもガンニバルのイベントに来たから笑ってしまう）、その手術をしたのだ。左肩は大変そうだったが、それ以外は問題なさそうで、それより糖尿病が大変らしい。こっそりコーンスープを飲んで怒られたらしい。