甘い甘い夢の宇宙へ

恵比寿のスタジオでガンニバルの取材をしていたまだ寒い春の手前、沢山の人に届けたい、と真摯に向き合った作品を真摯に届けることで頭がいっぱいだった。地下二階のスタジオを出て、休憩のタイミングの度、外の喫煙所へ向かった。タバコが吸いたかった訳ではない、プレッシャーから逃げたかったからだ。肩が、首が、頭が、目の奥が、身体中の何かを感じる事ができる場所の全てが重い、そんな圧力を全部捨てて逃げ出したかったからだ。隣でマネージャーが電話を受けていた。「舞台？ミュージカルですか？基本的にはお断りしているのですが、もしかしたら…、一度本人に確認します」と何やら盛り上がっている。電話を切ったマネージャーが僕に向き、「チョコプラさんがミュージカルに出てほしいって！！！」、何か恩返しをしなきゃいけないけど、一体、僕と長田さんに何があったんだっけ？

本番直前

ガンニバルの撮影、そしてオーストラリアでの撮影、その後アメリカを行ったり来たりした初夏、僕はチョコプラ長田さん、パンサー向井さんのYouTubeチャンネルにお呼ばれした。「車を見に行って、サウナに入り、ご飯を食べる」、それだけの事だから楽しそうだなって。その収録がすごく楽しくて、なんだか仕事って、物作りって、苦しみを伴わなきゃ良いものが出来ないみたいな空気感があるんですよ。そういう作品を続けてやって、ちょっと限界に来ていたんでしょうね。三人でサウナに入って、海に飛び込んで、「あ、空ってこんなに青いんだ〜、海ってこんなに大きいんだっ、誰かと過ごす時間にはこんなに幸せが溢れているんだ」って。ベンチの背もたれを倒して脱力している時、空の向こうの宇宙をずっと探しながらそんなことを考えていたんです。

「海外からの仕事が来た。でももう重圧で怖くて潰れそうで断ろうと思ってたけど。僕やります。」って答えたんですよ。長田さんが「芝居やってないこの空は見れないからね」って笑ってだけど、僕はその言葉忘れられなくて。それで僕は韓国の映画のオファーを受けたんです。僕じゃない方が良いんじゃないか、もっと人気者で、有名人で、格好良くて、そんな人の方が沢山のお客さんが食いつくんじゃないか。そんな話も実際監督にしました。涙が出そうな夜を何度も超えて、それでもこの空の向こう側の宇宙を見てる人だけがここに存在してる、そういう風に思ったんです。

今見ると泣いちゃう

デモ音源が届き、難しい歌でした。人前で歌ったこともないし全部が初めてでした。リハーサルをして、長田さんが「本当に泣きそうになった、やってくれてありがとう」と言ってくれました。今回の曲に「今伝わらなくてもいつか伝わる」という歌詞があります。青いですね、とてもクサイですね。でもなんだか僕に言ってくれているような、そんな気がしたんです。下手くそでも、カッコ悪くても、堂々とステージに立とうと。それが一番面白いって、そんなことを教わりました。

歌リハーサルの一発目練習

ミュージカル当日はもう緊張と不安とで頭が痛くて、頭痛薬を飲んで挑みました。登場する直前、パンサー向井さんとすれ違って、期待してるよって言われました。頑張りますって。ううん、楽しんでって。はいって答えて少し長めに見つめ合ってた時間の向井さんの目が本当に優しくて。ステージに登場した瞬間に会場がどよめいて、笠松将？って声もチラホラ聞こえて、すごく温かい、幸せな空間にご一緒させてもらえて光栄でした。なんで僕だったんだろう、全然分からないけど、なんだか長田さんは凄い僕の事を認めてくれている気がするんです。そういう一人の為だけに、これからも下手くそな唄を堂々と歌っていきたいと強く思いました。

https://youtu.be/KrkclH7G7S4?si=yR95spV08SeStdaY