神様からのハンディキャップ

燦々と太陽が照りつけるなか、暑い熱い暑いと泣きながら働いています。汗という涙を流して、塩分と気力を失いながら、愚直にセリフを吐き出す日々です。ゴホゴホ。毎日食事を三食、おやつもしっかり食べて、筋トレもいつもより少し重量が上がったりしてギラギラとした部分も損なう事なくただ愚直に、ゴホゴホ。今日夢を見ました。現場に行ったら覚えていた台本のページが違って焦る、というものでした。夢で良かった、と心底感じました。こういう夢をよく見ます、これはいい夢だと思うのです。慢心するなと、こういう時こそ緊張感を持って慎重に挑めと。ありがたい、ビビリで良かった。ゴホゴホ。

来週には、何度か匂わせている、「歌うお仕事」があります。歌うお仕事ってなんだよ、という感じですが、音痴な僕でもそういう仕事をやらねばならない、一肌脱がねばならない、そういう時があるものです。せめてしっかり喉を開いて、なんならボイトレなんてものに行ってみようかな、意味はあるのかな、気持ちの持ち様で姿勢の問題であるからこそ大事では無いのだろうか。ゴホゴホ、さっきからこの乾いた咳はなんだ。体調はすこぶる良い、やる気もある、ゴホゴホ、これは一体なんなんだ、こういう時に限って。

薬だ、薬をくれ。そいつを飲んで寝りゃ治る…、人間が持ってる治癒力、これに頼るんだ。時間がない、頼むよ、今スケジュールを飛ばす訳にはいかない。薬、薬、一番苦いやつ、一番強いのを分けてくれ…。薬局に突入した僕は風邪薬コーナーを見渡す。「風邪薬コーナー」の「風邪」の部分に違和感を覚える。違うんだ、風邪じゃない、少し、少しだけ咳が出る。一言話せばゴホゴホ、もう一言話せばゴホゴホゴホ、それだけなんだ、風邪じゃない、ウイルスなんかじゃない、やめてくれ、僕を隔離しないでくれ。綾瀬はるかと石原さとみがおすすめしている二つのお薬がある。どちらに治してもらおう、どちらが優しいだろう、どちらの方が効き目があるだろうか。内容を確認するため、石原さんの方に手を伸ばす。「ホリプロを辞めたくせに」と聞こえた気がした。違うんです、ちょっとだけ咳が出るだけなんです。慌てて綾瀬さんの方に手を伸ばす、助けてください。「ウチを出たから咳が出るんじゃないの」と真顔で冷たく言われた気がした。違うんです、ちょっとだけ咳だけなんです。

数日後、僕は歌を歌う。普段声なんて気にしない男が、音痴な僕が誰かのために必死に歌詞と、メロディを魂に刻んでいる。神様からの試練だろうか、鬼が悪戯に邪魔をしているのだろうか。好きにすればいいさ、好きなだけ、好きにやってくれ。配られたカードで勝負をするんだ、奪われた声に、咳の代償、ちょうど良いじゃない。独立してから三年目、これくらいハンディキャップがないとゾクゾクしない身体になってしまったんだ。ゴホゴホ、ウエっ。

https://youtu.be/lE8704vyTcI?si=YOUd7UfegVE7E3lM