雨のせいだと言ってやろう

テーブルのカード達を見下している。これに他意はなく、ただ物理的に上から眺めている。僕のは♣️7と♢3だから、つまり10になる。確か、僕の隣の二人（一人はお喋りな歳上の女性で、もう一人は欧米系の恰幅のいい男性で酔っ払っていた）のカードも数字の小さいものだった。ディーラーは一枚目のカードを表にして（♠️K）、一枚ずつ僕たちに配った後の最後の一枚を伏せている。実質、カードの山には四組だか六組のトランプのセットが混ざっているから同じカードがその枚数分だけ混ざっていることになる。だからそんな事はあり得ない（あり得ないなんてことはこの世界に無いのだけど）のだが、次のカードが絵札（10、J、Q、K）だと確信できる時がある。山札の一番上（実際はミキサーの一番下なのだけど）が光っている。祈るや願うとかではなく、その一瞬は神様と勝負をする気持ちでさえいる。俺の流れと勝負しようぜ、ってね。僕はカードを引く前に人差し指を突き出す。ダブル。指を一本出したのにダブル、とてもややこしい（指を二本出す時はスプリット）。このダブルというのは、一枚だけ引く（ワンカード）代わりに掛け金を二倍にするというもの。次のカードで絵札がくれば20になるし、もしAが来たら合計は21で、このテーブル上の一番強い組み合わせになる。僕のカードは♣️５、歳上の女性が残念だったね、という仕草をしながら何語かわからない言葉を話していた。僕は目線さえ動かさず次の一枚を見ていた。♡のQ、ディーラーも無表情で伏せていたカードを表にする。♠️K、♡６、♡Q、21を超えたのでtoo many、僕の勝利である。♣️と♢の弱小カードで、♠️と♡のキングの首を同時に狩ったことになる。恰幅のいい男がグラスを掲げてこちらに微笑んだので無視をした。まだまだ夜は続くから。

弱小のカードで勝つこともあれば、キングを味方に付けて負けることもある。この世界には間違いなく“流れ”というものがあり、どこで生まれて、どこに消えていくのかもわからない。先ほどの例は、“良い例”だが、“悪い例”もある。いや、そもそも“逆”なのかもしれないが。次のカードが、どう考えても不利なものにしか思えない時である。怖くて引けず、動けなくなる。流れを変えようと大きく賭けても、どんどん蟻地獄に引き摺り込まれるように、状況は変わらない。むしろ、カジノでの悪い流れから抜け出せず、早めにカジノに近寄らなくなる方が人生にとっては良いことが多いのだけど。

僕は今、次のカードを引くのが怖い状態である。ミキサーに置かれたディーラーの指先から“流れ”を感じられない。早くこのテーブルから立ち上がりたいのだけどそれができずにいる。

なんの仕事をやれば良いのかがわからない、どの問い合わせが絵札で、僕自身の手持ちがなんなのかが分かっていない。どう足掻いても21にはならないような、ディーラーがドボンしないような、そんな悪い流れが、現在進行形で僕の“テーブル”に覆い被さっている気がしている。動くしかない、思考より行動が大事な時期だ。間違ってもいい、焦らず淡々と…。周りを確認すると、お喋りな女性も恰幅のいい男ももう居ない。また僕だけ一人、このつまらないゲームに取り残されている。

https://youtu.be/GduANn6Asv8?feature=shared