祖父の足取りすらも軽くする
- 笠松将

- 8月4日
- 読了時間: 4分

三歳の頃、そのくらい幼い頃にディズニーオンアイスに言ったことがあるらしい。親族で集まるとその話で盛り上がることが何度かあった。そういう経験を幼い頃にしているから、僕は芸術の仕事をしているのだと(俳優が芸術家かどうかは一旦置いといて)。ディズニーの担当者さんとお話をする機会があり、名古屋で開催されるディズニーオンアイスにいくことになった。早朝に新幹線に乗り込み、席について少しだけシートを傾けた。足の居場所が決まらずモタモタしていると、「かさまつ」と声をかけられた。すぐに立ち上がり振り返る。咄嗟にサングラスを外してしまったのでもうほとんど何も見えていない。「わかる?覚えてる?」と優しい口調で続く。あ、あ〜、はい、とそっけない返事をした後に、「え?溝端さんですか???お久しぶりです!!!」と、先輩に対して何とも言えない反応をしてしまった。
名古屋に到着して、溝端淳平さんの席の近くにいき挨拶をして降りた。ディズニーオンアイスは名古屋駅から特急電車でセントレア空港に向かう必要がある。そんな日に限って電車は30分近く遅延していて(僕の電車の前に事故があったらしい)、僕は灼熱のホームでシャチホコになる寸前だった。セントレアに到着して、待ち合わせのコメダに到着する。母、叔母、祖父と祖母、30分前に入店してコーヒーを頼んだはずなのに土日の(さらに夏休みでしたか)地方空港の昼時の喫茶店はパンク寸前であった。叔母が「あたしが回してこようか」と言ったような気がする。
会場までそこから十分くらい歩く。太陽が暑くて、半室内だがクーラーはない。動く歩道はスローで、隣の徒歩組に抜かれていく。祖父の顔が死にそうになっていたが、祖母はルンルンで何歩も先を一人で進んでいた。会場に入ると何よりもクーラーが気持ちよかった。

劇が始まり、前の席の小さい女の子がグミを食べながら、すごい集中力でスケートリンクの登場人物を見ている。この会場に何人がいるんだろう、何人の子供達がこれを楽しみにしていたのだろう。すごいな〜、心からそう思う。あっという間の2時間弱だった。後ろの席の男の子がずっと泣いていたけど、その祖父が振り返り構おうとする、そうすると余計に泣くので母が嫌そうにしていた。楽しんでもらう、喜んでもらうのは本当に難しいことだと思う。

すぐに会場を後にしてセントレアに向かう。祖父は行きよりも足取りが軽そうで、小走りをして見せたりした。ディズニーは85歳の祖父の調子すらもよくしてしまう。太陽が、僕がこの数年で行ったどの国のどの都市よりも強い日差しで僕たちを歓迎しているように思う。物理的に忘れられない、光量が強すぎてこの世界に真っ白に飛びそうなくらいに。特急電車の指定席に座り車窓の外を見ながら祖父が、ずっと祖母に話しかけていた。あそこのモールによく行ったとか、あそこの鰻屋の主人が亡くなったとか。会話を始めたらもう次の景色がやってくる。あそこで働いていたとか。祖母も嬉しそうに窓の外を見ていた。
母からのオーダーで夜ご飯は、イタリアン、お肉、魚、が良いそうだ。人数が多いので昼過ぎに予約した店に向かう。名古屋の店なんて知らないから、ネットで検索した一番上の店にした。知り合いの店じゃないから心配したけど悪くなかった。悪くない時間だった。祖父がずっと、「昨日ね、誕生日だったんだ」と子供みたいに自慢していた。それで孫がご飯に誘ってくれた、と。盛り上げ上手なシェフがその話の度に90度のお辞儀をして、来年もぜひいらしてください、と言う。祖父はとても嬉しそうだった。デザートのタイミングで誕生日プレートを用意してくれた。もう沢山は食べられないので、プレートにチョコペンでメッセージが入っているだけのものだったけど、そこに気遣いを感じた。僕は用意していた花束を渡す。「涙が出る」と言っておしぼりで顔を押さえていた。こんな短い文章にも名古屋弁のリズムが乗るのかと驚いた。広島から単身名古屋にやってきた祖父は、それくらい長い時間名古屋で働いてきたのか、と。おしぼりを外すと涙は一滴も出ていなかったけど、目が真っ赤で鼻水が出ていた。帰って働くか。


お祖父様
お誕生日おめでとうございます🎂
孫にお祝いしてもらえる😊なんて幸せ💗そりゃ、小走りもするよ😍ほっこりエピソードありがとうございます✨久しぶりに、名古屋に行きたくなりました😊
それにしても毎日暑いですね🥵身体に気をつけて。今日も良い1日になりますように☘️
おじいちゃんの気持ちになって読みました。いい孫や!
とーっても幸せな良い時間でしたね
読んでるこっちまで幸せ🩵
ステキな家族ですね!
笠松くんのおじいちゃんお誕生日おめでとう🎊🎊来年も再来年も笠松くんがお祝いするからずっと元気でね🎉❤️🌻